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ロシアのサンタクロースにまつわるお話2016.12.27

みなさん、こんにちは。気づけばもう年の暮れですが、いかがお過ごしですか。こちらモスクワは、早々に本格的な雪が積もりはじめ、すでに最低気温が-10度を下回るようになりました。肌にピーンとした冷たさを感じる12月に入ってからは至る所にもみの木が置かれ、華やかなイルミネーションがモスクワの夜をより一層引き立てています。ところで、クリスマスといえばサンタクロースを連想される方が多いかと思いますが、ロシアにはサンタクロースはおらず、ジェド・マロースというお爺さんが、スネグーラチカという孫娘と共にもみの木を飾っている家庭に、大きな袋を持って、魔法の杖を携えて、現れます。ロシアの新年のお休みは10日までと長く、その間に、街のあちこちで、子供たちのために、もみの木まつりが行われます。その期間中は、もみの木の周りで、歌や踊りにプレゼントと、子供たちにとって、楽しい、忘れられない、想い出の日になるのです。

■ジェド・マロース Дед МорозDed Moroz 

ジェド・マロースとは新年を迎えるお祭りの際に現れる東スラヴ版のサンタクロースのことで、直訳すると「霜のお祖父さん」という意味になります。1930年代終わりのソ連で、新年を祝うシンボル(クリスマスのためではない)として現れ、親しまれ始めました。ちなみに、ジェドマロースのモデルはスラヴの雪にまつわる神様です。

<主な特徴>

白く長いひげを蓄えた老人の姿で、青・赤・白いずれかの長いコートに身を包み、長い魔法の杖を携えています。常に孫娘スネグーラチカを引き連れ、三頭(トロイカ)の馬のそりで移動します。

今年も、すでにモスクワで行われているイベントに参加しているジェド・マロースを見かけましたが、私の目から見ても、ジェド・マロースと西洋のサンタクロースは確かに違います。サンタクロースはブーツを履きアクティブな格好をしていますし、時には煙突から落っこちる、といったお茶目なイメージも持っていますが、ジェド・マロースは静かで落ち着きがあり、精霊であったり神様であったりするような厳かなイメージを持っているように感じます。言うなれば、動のサンタクロースと静のジェド・マロースといったところでしょうか。ただ、これらのイメージすべてがそれぞれの物語の性格からきているというわけではありません。やはり、西洋のサンタクロースは世界的に見て圧倒的に人気ですし、メディアへの露出も多く、単純に人の目に触れる機会が多いです。一方、ジェド・マロースはもしかしたら世界的な認知は受けておらず、ロシアのサンタクロースとして数えられていることさえあるかもも知れません。この状況を考えれば、サンタクロースに対するイメージとジェド・マロースに対するイメージに差が出るのは仕方がないことだと言ってもいいでしょう。不思議なことに容姿やエピソードなど似ている点が何かと多い両者ですが、最も重要なのは、西洋のサンタクロースとは異なり、ジェド・マロースは新年を祝うために現れるのです。日本人はよく観念的だと言われます。キリスト教徒ではなくてもクリスマスはやってきますし、大晦日から元旦にかけて、お寺で除夜の鐘をついたあと、神社に初詣に行くようなこともします。そんな感覚からか、去年私が初めてモスクワに来たときは、ジェド・マロースをサンタクロースと、もみの木をクリスマスツリーと呼んでしまった記憶があるのですが、ロシア人の中にははっきりとした区別があるということを気をつけなければいけません。

■孫娘スネグーラチカ Снегурочка(Snegurochka)

彼女もまた新年を迎えるために欠かせない重要な存在です。幼い姿で描かれることもあれば美しい娘の姿として描かれることもありますが、これはスラヴの史料の中にスネグーラチカに関する詳しい表記がなく、彼女の存在自体が民間伝承で広まったためでもあるそうです。描かれ方は様々ですが、ジェド・マロースの孫娘としてロシア人に親しまれています。ちなみに、西洋のクリスマスのお話にはこのような女性は存在しません。

■ジェドマロースとスネグーラチカのお話

彼らに関するお話はたくさんありますが、ここではそのうちの一つをご紹介します。

※以下、http://sun-town.narod.ru/ded_moroz.htmより翻訳

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昔々、これはまだ、この世界に、地下鉄や飛行機、電話、テレビにパソコンさえなかった時代のお話です。ある貴族のお屋敷にカーチャという少女が重い病に苦しんでいました。選りすぐりのお医者にかかりましたが、治ることはありませんでした。カーチャは何も食べず、ほとんど寝ず、ただ泣いてばかりでした。彼女の両親はひどく落胆し、もはや天運に任せることぐらいしかできませんでした。12月のことです。新年が近づいたその頃では、すでに道という道が雪で凍り、家族3人の元へは誰も行くことができなくなっていました。ある夜、遠くから鐘の鳴る音が聞こえました。どうやら誰かが3頭の馬に乗っているようです。

カーチャの両親は驚きと喜びの中、使いの者に門を開けるよう言いつけ、走って会いに行きました。なぜなら、二人は訪問客が好きで、新年の奇跡を待ちわびていたからです。そこで二人は驚くべき光景を目の当たりにしました。3匹の馬の前にはひとりでに雪だまりが開かれ、その道を3匹の馬たちはまるで行き慣れた道かのように颯爽と駆けてくるのでした。彼らを引っ張っていたのはやさしい魔法使いでした。カーチャの両親はその旅人へ、我が家へ立ち寄ってもらい、年越しまでもてなし、病気の娘を診てもらえないかと提案しました。魔法使いは親切な二人に感謝し、屋敷へ立ち寄ることにしました。まず、彼は少女と話をし、すぐに眠るようすすめました。そうすることで彼女に夢を見せてあげると約束しました。カーチャは喜んで、安心して眠りにつきました。彼女がまだ眠っている間に、魔法使いは、雪からジェド・マロースとスネグーラチカを作って、彼らに色をつけました。それは間違いなく本物の二人で、カーチャは彼らを夢に見ました。少女は目を覚ましながら、窓の陰にジェド・マロースとスネグーラチカの姿を見てとり、楽しそうに笑って、すっかり治ってしまいました。じきにもみの木を飾る時期になりました。カーチャはお母さんとお父さんを手伝い、甘いお菓子や人形をもみの木に飾りつけました。そして、少女は、新年の祭日にジェド・マロースとスネグーラチカも一緒にまた遊びに来るよう魔法使いにお願いしました。魔法使いは家族3人を元気にし、プレゼントと鐘を鳴らす3頭の馬のそりによって奇跡をもたらしたのでした。彼らはカーチャに新年のお祝いをして、愉快になり、全員で残った子供たちのところへプレゼントを配ったのでした。それ以降、ジェド・マロースとスネグーラチカは毎年の新年を迎えるときに子供たちのところへプレゼントとともに通うようになりました。彼らはВеликий Устюг(ビエリキーウストゥク)という街にある、他所から離れた古い白壁の家に住んでいます。その家の大広間は常にご馳走を載せた大きな丸いテーブルで覆われています。大広間の中心には大きくて綺麗なもみの木が鮮やかな火によって照らされていて、その下にはプレゼントが置かれています。ジェド・マロースとスネグーラチカは素敵な招待とあなたのお手紙を待っています。

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この物語は、私がモスクワでロシア語を習い始めたときに、先生が教材として授業で使ったものです。貴族の娘が病に臥せり、もうどうしようもないという状況で、神秘的な登場人物たちがもたらす奇跡によって、物語はハッピーエンドで終わる。もう私自身小さい子供ではないので素直に感動できるわけもなく、どこにでもあるありきたりな話だな、と退屈気味に聞いていたのですが、最後に実際の地名と住所が読み上げられたとき「え、ほんとにあるの?(笑)」とびっくりしたのを覚えています。明らかなファンタジーにとってつけたような事実の組み合わせが妙に面白くて、なぜか強く印象に残っていたので、紹介させてもらいました。

おまけ                                

実はお話の中だけでなく、実際にジェド・マロースへ手紙を送ることができます。今年の新年のお祝いに是非送ってみてはいかがでしょうか。

【ジェド・マロース郵便局Почта Деда Мороза(Pochta Ded Moroz)】

住所: 162390 Россия , Октябрьский проспект, 1.А, Великий Устюг , Вологодская область(Oktyabrskiy per., 1а, Velikiy Ustyug, Vologodskaya oblast’, Russia, 162390),

URL:http://pochta-dm.ru/